2015-10-01 伊坂幸太郎『砂漠』は青春小説だね!(№76)

最近短編はいくつか読んでいたのですが、久々に長い小説を読みました。伊坂幸太郎『砂漠』です。ツイッターで知り合った方のオススメでした。

 

伊坂幸太郎の作品は今まで2つ読んだことがあります。ひとつは『重力ピエロ』、もうひとつは『死神の精度』です。どちらもおもしろかったです。だから『砂漠』もきっとおもしろいにちがいないと思って読むことにしました。

 

まずはこの本の内容をアマゾンから引用。

 入学した大学で出会った5人の男女。ボウリング、合コン、麻雀、通り魔犯との遭遇、捨てられた犬の救出、超能力対決…。共に経験した出来事や事件が、互いの絆を深め、それぞれ成長させてゆく。自らの未熟さに悩み、過剰さを持て余し、それでも何かを求めて手探りで先へ進もうとする青春時代。二度とない季節の光と闇をパンクロックのビートにのせて描く、爽快感溢れる長編小説。

 

5人というのは、主人公の北村・西嶋・鳥井(この3人が男性)・南・東堂(この2人が女性)です。主人公は北村ですが、彼だけに焦点があてられているわけではなくこの5人全体に焦点があてられているような感じです。

 

だから特に北村だけかっこよかったり、苦労したり、大変な思いをしたりということはなく、むしろ主人公がふつうな感じです。だから読む人によってはちょっと物足りなく感じるのかもしれません。

 

アマゾンのレビューなどを見てもこの作品はいい・悪いが分かれているような印象があります。

 

「淡々と日常が語られる」とか「一つ一つのアクションに必然性も説得力も全く感じず」とか「話の展開、設定、登場人物のメンタリティが不自然になって読むのをやめた」とか「一言で言えばくだらない小説」とか作者に失礼なレビューがたくさん並んでいます。

 

おそらくこういうレビューを書く人はとても舌の肥えた人間で、小説を楽しむ人にとってはあまり参考にならないと思います。

 

私にとって『砂漠』は十分に楽しめました。とてもおもしろかったです。

 

確かに設定は平凡だし、大どんでん返しというものもなかったように感じます。しかし、登場人物の考え方や動きとそれぞれの人間関係に関してはよく書けていました。まさに青春小説って感じです。

 

「あー、痛い」、「それ、やばいだろ」、「えー、そんなことやっちゃう?」、「まじか、いいなぁ」、「そんな女とつきあいたい」、「おれもそれやりたい」、「元気出せよ」、「相談に乗るよ」などと、作中の人物に話しかけたくなるような小説です。

 

人物について述べると、おそらく登場人物の中で一番個性がある西嶋がおもしろいという人が多いと思います。私はこの5人の中ではなく、社会人の鳩麦さんというアパレルの店員さんが好きでした。

 

大人としての観点でちょっとした意見を言う場面があるのですが、それがちょっと気になったりします。

 

たとえば

賢くて、偉そうな人に限って、物事を要約したがるんだよ」

 という鳩麦さんのセリフ、確かにあるあるです。

 

もう少しこのことを詳しく言ってるのがこれ

超能力はこうだ、とか、信じる人はどうだ、とかね。たとえば、映画を観ても、この映画のテーマは煮干しである、とかね、何でも要約しちゃうの。みんな一緒くたにして、本質を見抜こうとしちゃうわけ。実際は本質なんてさ、みんなばらばらで、ケースバイケースだと思うのに、要約して、分類したがる。そうすると自分の賢いことをアピールできるから、かも

 

いやあ、ホント鋭い洞察力です。

 

他にも

毎日毎日、わたしたちって必死に生きてるけどさ、どうしたら正しいなんて分からないでしょ

 

何をやったら、幸せになれるかなんて、誰も分からない。そうでしょ

 

変な話、砂漠にぽんって放り出されて、「あとは自由に!」って言われたようなものじゃない

 

そう。どうやって生きればいいか、なんて誰も教えてくれない。お好きなように、と指示されるのって、逆につらいと思うんだよね

 

みんな正解を知りたいんだよ。正解じゃなくても、せめて、ヒントを欲しがってる。だから、たとえば、一戸建てを買う時のチェックポイント、とか、失敗しない子育ての何か条、とか、これだけやれば問題ないですよ、って指標に頼りたくなる

 

もうこのセリフを見るとこの人ただ者ではないなと言いたくなるぐらいです。鳩麦さんすごいなぁ。

 

こんなふうに登場人物がそれぞれの個性に合わせて話すセリフもこの小説の魅力だと勝手に思いました。

 

個人的にはとてもおもしろく感じた小説で読んで満足しています。さすが伊坂幸太郎さんですね。

 

機会があったら伊坂さんの他の作品も読んでみようと思います。たまには小説もいいですね!